昔日の九州路をたどって

九州北辺、今の福岡県の博多湾に面した地域の風景は、現在でこそ埋め立てが進み、昔日の面影はありません。

しかし、その昔、壱岐や対馬の辺境警固に向かった防人たちも同じこの海を前に心を新たにしたことでしょう。

現在も壱岐や対馬に渡るにはこの博多湾から旅立ちますが、防人たちも同じ海路を通ってそれぞれの任地に向かったはずです。

ただ残念なのは、私たちが防人の昔の道をたどろうにも、彼らの任地がほとんどわかっていないのです。

幸いなことに、防人ではない詠み手が防人の時代を詠んだ歌として、数首が万葉集に残っています。

その歌を通して防人たちが実際に活躍した九州の地を訪ねてみることにします。


沖つ鳥 鴨とふ船の 帰り来ば
也良の崎守 早く告げこそ

この歌は、万葉集巻16に収集されている筑前国志賀の白水郎の歌10首の1つです。

「也良の崎守よ、鴨という船が帰ってきたら早く知らせて欲しい」という内容です。

この鴨という船には、対馬に糧食を送る大宰府の命を受けた宗形部津麻呂の代わりに、荒雄が乗っていたはずです。

しかし、荒雄は遭難していまだ戻ってはきません。

その深い悲しみを歌に託したもので、作者は山上憶良ともいわれています。

この歌を取り上げたのは、もちろん「也良の崎守」という地名で、崎守は様々な説がありますが、防人を指しているというのが一般的な解釈です。

也良というのは地名で、現在博多湾に浮かぶ能古島の北端にある也良岬のことを指しています。

おそらく防人は、この也良岬で海上の警固をしていたのでしょう。

その防人に対し、作者は「どうか一刻も早く荒雄の帰還を知らせて欲しい」と願ったのに違いありません。

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