防人歌にみる防人たちの心情 2
妻ばかりでなく、父母を思いやる歌も防人歌には多いです。
大君の 命かしこみ 磯に触り
海原渡る 父母を置きて
作者は、助丁丈部造人麻呂(はせつかべのみやつこひとまろ)という防人です。
天皇の命を承って、磯にぶつかりそうになりながらも波の荒い海を渡り、防人として九州に向かう自分の姿を詠んでいます。
しかし、この歌でわたしたちの心をひくのは、「父母を置きて」というところでしょう。
東国の民である防人たちが朝廷に対して恭順の意を表すには、つらいことであっても防入の任務に就くことが一番でした。
だからこそ、この作者は「大君の命かしこみ」とまず詠んだのでしょうが、それだけに父母を故郷に残してきた悲哀が、歌中にかえって対照的な強さをもって響いています。
万葉集の魅力のひとつは、技巧よりも、こうした個入の素朴な感情を重視した歌が数多く集められているところにもあります。